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「写真見た? 産婦人科に行ったりしなかったでしょう?」
「それは、そうだけど」
「結局、瑠璃のほうが嵐への罪悪感に負けたの。好きな人が自分のせいで、日に日に沈んでいくのを見ていられなかったんだ」
私だって、そんなの見たくない。
好きな人には笑っていてほしいから。
「今は結婚して子供もいる。最近会ったの。嵐に会うことがあれば伝えて欲しいって頼まれた」
「伝えたいこと?」
「『本当にごめんなさい。あなたも幸せになってください』」
それは、嵐さんへの解放の言葉だった。
「……瑠璃は、幸せなんだな」
「うん。笑ってたよ」
「……良かった」
安心した微笑みは、嵐さんと会った中で一番輝いていた。
泉さんは、これまで一度も口を挟まなかった杏さんに頭を下げた。
「時間をとらせてしまって、申し訳ありませんでした」
「いいのよ。みんな約束を守ってくれたから」
笑顔で泉さんを迎えた。
「泉チャンはもう少し素直になってもいいと思うわ」
「……私にしては充分頑張りましたよ」
笑い合っていると、翼が顔を出した。
「悪いな。杏借りていくぞ」
「あ、うん」
つい返事をしてしまい、目が合うと小さく手を振ってくれた。
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