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「ムカついたから。初対面の人間にあんなこと言われたの初めてで」 「なるほど」 ムカついたって言われて笑っているなんて、鈍いのか図太いのかよく分からない。 「こっち。俺の知り合いがいるんだ」 隣を歩きながら彼を見上げてすぐに視線を外した。 なんとなく分かった。 私と彼の違い。 真っ直ぐな瞳に迷いがないからだ。 迷いがないから曇らない。 芯が入った言葉に力が増す。 「いらっしゃいませ」 気づくと目的の場所に着いたらしい。 「お疲れさん。珍しいな女連れて来るなんて」 店長らしき人が彼に話しかけ、私に軽く会釈した。 「ちょっとな。いつもの場所空いてる?」 「あぁ。丁度あいたところだ」 店長さんが顎で席を促すが、彼は足取り軽く進んでいた。 「ここは俺のお気に入り。窓から見える景色が好きで、空いてたら必ずここにするんだ」 ソファー席を譲られ、振り向くとライトやネオンが散りばめられていた。 「……綺麗」 最近は家と会社の往復ばかり。たまに行くのは居酒屋かカフェぐらい。 こんな景色を見るのも久しぶりだ。 「良かった。喜んでくれて」 下心ではなく、本当にそう思ったんだろう。 表情がナンパ男と違う。 ただの女を見る目と、私自身を見て笑ってくれる目に疑った自分が嫌になる。 「……ありがとう」 小さな声なら聞こえないと思った。 「どういたしまして」
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