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殴られたというのに、嵐さんは笑っていた。 グラスを持つ私の手に、自分の手を重ねた。 「本当にごめん。傷つけるつもりじゃなかった。それだけは分かってほしい」 真剣な表情。 私を巻き込んだことでもなく、嵐さん自身のことでもない、今を否定するものでもなかった。 「……分かってるよ。もう気にしないで」 「それから」 「ストップ」 翼の声が割り込んだ。 口を挟んでくるとは思わなかった。 「どうしたの?」 微妙に機嫌悪いみたい。 「割り込んで悪い」 私に謝ると、嵐さんの手を私から引き離した。 「いつまでも触んないでくれる?」 「あ、スミマセン」 「もしかして、ずっと言いたかったとか?」 「……続けて」 どうやら図星のようだ。 席を立つこともしない。 代わりに、グラスを一気に傾けた。 「で、続きは?」 翼を気にしながら、言いかけた言葉を探している。 「あぁ。あの、俺さ。あいつのことずっと忘れられなかったのって好きだと思ってたけど、どこか意地もあったと思う」 視線を流した先には、楽しそうに笑う泉さん。 「それに、勝手に縛られた俺がバカだった」 もう、苦しそうに笑っていない。
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