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「例のワンピースって、榊原さんと会った時の?」
「……うん」
「着てないでしょう?」
思わず目をそらした。
買い物の時に、ピンクの小物や洋服に目がいくようになったけど、未だにあのワンピースを着る勇気がない。
「きっと喜ぶよ、翼」
そう言われてしまえば、考えてしまう。
翼のことだから絶対に「似合うよ」って言ってくれるはずだから。
「……考えておきます」
男性陣のほうを見ると、和希たちの中に翼がいるだけなのに、新鮮なものに見える。
「そう言えば、いつの間に中野君と名前で呼び合うようになったのよ?」
自分ばかり言われるのがイヤで矛先を梓に変えた。
「最近かな」
「中野が女の子の名前呼ぶの初めてきいた。しかも愛称だなんて」
「あーあれはですね」
梓が思い出して小さく笑う。
見ているだけで、嬉しそうなのが分かる。
「多分、梓って言いたかったんだと思うんだよね。でも、緊張したせいか最後まで言えなくて」
「それで『アズ』?」
「うん。誰からもそんな風に呼ばれたことないし、ちょっと特別な感じでいいかなって」
確かに、同性の友達ですら梓をそう呼ぶ人はいない。
中野君だけの特権。
ちょっと羨ましく思う。
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