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「仕上げ」
鏡を置いて私の後ろに立つ。
耳元で聞こえた直後、首がヒヤリとした。
ピンクゴールドのクロスのネックレス。
「……これ」
「母親からもらったものだから気にしなくていいよ」
「だって、大事なものでしょう?」
「だから。付けてて」
立ち上がり、全身を鏡に写してみる。
「……自分じゃないみたい」
魔法にでもかかった気分だ。
あんなに恥ずかしかったこの服も、メイクと髪を仕上げたことであまり違和感なくおさまっている。
「元がいいからだよ。女性はみんな可愛くなれる。ただ」
翼が、巻いた私の髪を一房手に取った。
「俺がひとりの男として、輝かせたいと思うのは結華だけ」
真っ直ぐな瞳。
見慣れた顔なはずなのに、鼓動が早くなる。
「……あ、ありがとう、ございます」
ずっと見つめることができなくて、目をそらしてしまった。
「そろそろ出かけようか」
手を引かれ、玄関には見慣れない女物の白のパンプス。
「靴はコレな」
「……いつの間に」
嬉しいと感じるよりも、なんだか申し訳なく思う。
「きっと、出かけたらいくらでも言われるんだろうけど」
翼が少しだけムスッとしながら、私の手を強く握った。
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