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「何かあったのか? 珍しい組み合わせだし」 坂井君にはこのギスギスした空気は伝わっていないようだ。 梓は何も言わないけど、表情がなにやってんだかと呆れている。 「偶然会ったし、ちょっと世間話」 中野君が先程とは違って、にこやかになる。 「なぁ神白?」 「……うん」 初めて向けられた笑みに嬉しさなどはなく、ただ頷いた。 「ちょっとー私の結華取らないでよね」 おどけてみせた梓が私の手を取った。 「これからは女同士で話すことあるから。じゃあね、坂井君に中野君」 「ああ」 「神白」 突然呼ばれた名前に、思わず身体が強ばる。 梓の手を強く握っていた。 「早く、な」 「……分かってるわよ」 動けなくなった身体を再び梓が引っ張る。 「坂井君って天然なのかしら。あの険悪な空気を感じないなんて」 「ありがとう、梓。助かった」 「いいのよ。ただまだウワサはなくなったわけじゃないのに、中野君も派手に動いたわね」 「早くケリつけろって。めんどくせー女って言われた」 改めて、それは事実なわけで。 私自身の言動でそう感じている人がいる。 坂井君もきっと傷ついてるのに。 「中野君は結構毒舌よ。仕事上は女に優しいみたいだけど」 そう言えば、後輩がキャーキャー騒いでいた。 どこが月? 真っ直ぐすぎる瞳は冷たくて痛かった。
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