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「神白」 「ん?」 「今日、時間ある?」 「……大丈夫。終わったら正面にいるね」 「分かった。じゃあまたな」 短い会話の中に紛れた複雑な感情。 「今日は坂井君?」 「うん。私、金欠になりそう」 「坂井君に奢ってもらいなさい」 「……今日、言わないといけないみたい」 冗談ともとれる梓の発言に私の重い声が交差する。 「……そっか。でも、決めるのも選ぶのも結華だよ。私が決めていいならとっくに選んでる」 「そりゃそうよね」 中野君に言われたからじゃない。 以前から抱えていたものや、坂井君にちゃんと向かい合うために伝えないと。 「結華が決めてからでいいから教えてね」 「うん。ありがとう」 正直、どう伝えていいかなんて考えてなくて。 でも、今の私の気持ちをしっかりとした形にする必要がある。 「ねぇ梓」 「なに?」 「私がどんな答えでも坂井君は受け入れてくれるかな?」 自分勝手なんて分かってる。 今のままならお互いに現状維持できるけど、前に進めない。 「バカ。坂井君はそんなアホな男じゃないわよ」 梓の綺麗な指先でされたデコピンは痛くなかった。 自分のことしか考えてない自分に気づかされる。 「結華も器を広げるの。そうすれば見えてくるって。私も一緒だし大丈夫よ」
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