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坂井君の一言で、後輩たちは言葉をなくした。 中野君は顔を背けて小さなため息を吐いていた。 「んじゃ、俺帰るわ」 「あぁまたな」 「お疲れさん」 中野君が歩きだすと、女の子たちは一瞬迷って中野君に付いていった。 「お疲れ様」 「お疲れ。待たせてゴメンね」 「尚樹も一緒だったから平気。どこ行く?」 「いつものとこで」 決まって行くのは全国チェーンの居酒屋。安いし味に拘らなければ楽しく飲める。 「行くか」 居酒屋に向かうと自然と隣を歩く。 チラッと坂井君を見上げると目が合った。 「どうした?」 「……なんでもない」 好きだな、って思う。 カッコいいって思わせる行動が凄い。 見習うべきところがたくさんある。 「乾杯」 いつもなら仕事終わりの一杯は美味しいのに、今日に限って味がしない。 「神白」 顔をあげると坂井君が苦笑いしている。 せっかくの飲みの席で、そんな表情をさせてしまった。 「やっぱり尚樹になんか言われて凹んでるだろ?」 こんなときまで私の心配をしてくれる。 「言われたけど、中野君の言う通りだから」 「なんて?」 「……内緒」 言えない。 フラフラしてるなんて。 「尚樹には言えて俺には言えないの?」 坂井君には珍しく少しだけイラついた声。 「神白に先手打たれたから言わなかったけど、持っていかれそうなら黙ってられない」 真っ直ぐな視線。 痛いぐらい伝わる思い。 「神白のことがずっと好きだった。これからは俺のそばにいて欲しい」
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