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「坂井君」 「ん?」 「好きになってくれてありがとう」 今まで告白されたことがないわけじゃないけど、ここまで悩んだのは初めてだ。 梓はキッパリした性格だから、いつも答えを出すのは早かった。 梓は梓なりに悩んでいたかもしれないが、変に見慣れたためどこか軽く見ていた。 自分に想いを寄せてくれる、嬉しさと苦しさを感じた。 これはきっと、坂井君だったから。 「どういたしまして。俺を振ったんだから、いい男捕まえろよ」 「……努力します」 あれから飲んで、少し酔った私はタクシーで帰ることにした。 今日まで坂井君の手を焼かせたくない。 「気をつけてな」 「うん。ありがとう。じゃあね」 「神白」 タクシーに乗ろうとした瞬間に名前を呼ばれた。 振り返ろうとしたら、坂井君が腕を掴んで引き寄せた。 「……結華」 軽く触れたのは唇ではなく額。 初めて下の名前で呼ばれた。 「最初で最後、な。酔っぱらいに絡まれたと思ってくれな」 坂井君の香り。 最後まで、本当に優しくて引っ込んだ涙が一気に溢れそうになる。 「お願いがあるんだけどいいか?」 「なに?」 「名前で呼んで。和希でいい。その代わり、俺も結華って呼んでいい?」 以前どこかで聞いた。 最も、そちらは未だに名前で呼んだことはない。 「いいよ。なんだか今更だよね。入社して結構経つのに」
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