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前の……?
「…出たら…?鳴ってるよ…私向こうに行ってるから。」
私はそそくさと堤防に沿いながら早足で遠退いていった。
しばらくして由人を振り返る。由人の懐かしんでいる顔が私の脈打ちを早める。
何の話…?
抑えきれない不安を、ぎゅっと手の中に握りしめた。こんな気持ちになっても…何も言えない。
私は彼女じゃないんだから。
ずっと見ていると惨めになりそうで私は背中を向けて座った。
「みいな。」
静かに足音が近づき、由人の声で私は顔を上げた。
「終わった…?」
「………。」
由人の顔を見れば、電話の内容がただの久しぶりの電話じゃないことが一目で分かった。
由人は眉を潜め、悲しそうな顔で私を見て、ただ沈黙を守るだけだった。
「…電話…でたりしてごめん。なんか…前の彼女が最近すごく落ち込んでるみたいでさ…。体にすぐでる奴だから…今日も倒れたみたいで…。」
由人が言葉を探りながら話すのがよく分かる。
頭の中は彼女でいっぱいなんだと思う。だって私の目なんか見てないもの。
「そう…。心配なんでしょ?」
「…ああ…。ごめん…ごめん、みいな…。」
由人がうつむいて何度も謝る。たまらずに後ろを向いて、私は気づかない振りをするしかなかった…。
「何で謝ってるか…わかんないよ…。」
冬雲が細やかに動く。星が寒さをまといながら闇のベールに光り輝く。
いつもの夜じゃない。悲しいほど長い夜だった。
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