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「あ、そうだな。あいつらこういう話はすぐ食い付いてくるくせに」
新巻耕太と春日日向、この二人のこそ当サークルでの公認カップルである。去年の夏にサークルの合宿で北海道に行ったときに見事にカップルとして成立した。
「そうね、あの二人がこないこと自体ミステリーね」
「あはは、それ言えてる!」
椅子に座ってケラケラと笑う、亮平。そんな、他愛の無い会話も一瞬にして終わりを迎える。
-ガチャリ
「どわぁぁぁ!」
不意に開いた扉に驚き亮平は椅子から思い切り転げ落ちた。
「こんちわー・・ってありゃりゃ、大丈夫か?」
部室に入ってきた男が亮平に歩み寄る。
「あのね!毎回部屋に入るときはノックをするようにって言ってるじゃん」
頭をさすりながら男の手をつかみながら立ち上がる。
「耕太か。でも今日はどうした?そんな格好をして」
スーツ姿を一度も披露していなかったためか、耕太に皆が興味津々である。
「あぁ、これ?ほら、もうすぐ美智子先輩の-」
耕太が全てを言い終わる前に亮平が飛び掛かった。
「うわっ!何をするんだ!」
「亮平止めろ!」
耕太に飛び付いた亮平を引き離すために信二は必死に体をつかんだ。
「てめぇ!二度とその言葉は言わねぇって約束だっただろ!」
信二を振りほどき、耕太に掴み掛かろうとするが、そうはさせまいと信二も必死にタックルを試みる。
「止めろ!やめろよっ!」
何とか亮平を押さえたが、気を抜けば、またいつ耕太に飛び掛かるか分かったものではない。
「すまん、お前があの時一番傷ついていたんだったな。お前が一番早く忘れようと努力していたのに・・・」
そう言い残すと耕太は部室を後にし、近くに止めてあった車に乗って姿を消した。
「亮平・・・」
「悪い、分かっちゃいるんだが、つい我を忘れて、カッとなっちまって」
「まぁ無理もないよな」
信二は亮平の肩をポン叩き、落ち着かせる。
田村 美智子
わがサークル、ミステリー同好会の会長にして、ミステリー小説作家と言う二足の草鞋を履く学年は一つ上の先輩で、とても優しく尊敬出来る先輩だった。
成績優秀、容姿端麗と言う言葉がとても似合い、信二達にとってまさに高嶺の花だった。
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