9964人が本棚に入れています
本棚に追加
/609ページ
担架の車輪が廊下を駆ける。ガタガタと振動する音が、俺の鼓膜に嫌に響いた。
(…………)
意識が朦朧としていた俺の耳には、周りを囲む数人の女性の声が聞こえてくる。
かなり慌てているのは判るが、肝心な会話の内容は聞き取れない。
俺の口には医療用の呼吸器があって、送られてくる酸素が重く感じられる。
視界が霞む。ただ、どうやら自分が担架で運ばれているということだけは理解できた。
アレだ。よくテレビドラマとかで、重傷の患者が白い廊下を運ばれてるようなシーン。あんな感じ。
……あれ?重傷?
ということは、俺は怪我をしてるってことか?っていうか痛みが無い時点で、相当にアレな状態なんじゃないか?
なんだろう。そう自覚した途端にヤバい気がしてきた。頭が回転し始めたせいか、意識も少しだけハッキリしてきたような……。
「――さん!不洞さん!しっかりしてください!この指が何本か見えますか!?」
ほら、ちょっぴり聞き取れるようになったぜ。
意識の確認のためだろうか。看護婦さん(声的に美人確定キタコレ)が、俺の目の前で指を立てている。
うん。アレだな。
「……綺麗な……指だよ。ハァハァ」
腹から声を振り絞ってそう言うと、看護婦さんは「ダメだこりゃ」みたいな様子で心底ウザそうに溜め息なんぞ漏らしやがった。
畜生。今、素で「死ね」とか考えただろ絶対。後半の喘ぎ声くらい大目に見ろよ。こっちは死にかけなんだよバーロー。
最初のコメントを投稿しよう!