君子危うきに近寄らず。不慮の事故には意味の無い言葉です……

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  担架の車輪が廊下を駆ける。ガタガタと振動する音が、俺の鼓膜に嫌に響いた。 (…………) 意識が朦朧としていた俺の耳には、周りを囲む数人の女性の声が聞こえてくる。 かなり慌てているのは判るが、肝心な会話の内容は聞き取れない。 俺の口には医療用の呼吸器があって、送られてくる酸素が重く感じられる。 視界が霞む。ただ、どうやら自分が担架で運ばれているということだけは理解できた。 アレだ。よくテレビドラマとかで、重傷の患者が白い廊下を運ばれてるようなシーン。あんな感じ。 ……あれ?重傷? ということは、俺は怪我をしてるってことか?っていうか痛みが無い時点で、相当にアレな状態なんじゃないか? なんだろう。そう自覚した途端にヤバい気がしてきた。頭が回転し始めたせいか、意識も少しだけハッキリしてきたような……。 「――さん!不洞さん!しっかりしてください!この指が何本か見えますか!?」 ほら、ちょっぴり聞き取れるようになったぜ。 意識の確認のためだろうか。看護婦さん(声的に美人確定キタコレ)が、俺の目の前で指を立てている。 うん。アレだな。 「……綺麗な……指だよ。ハァハァ」 腹から声を振り絞ってそう言うと、看護婦さんは「ダメだこりゃ」みたいな様子で心底ウザそうに溜め息なんぞ漏らしやがった。 畜生。今、素で「死ね」とか考えただろ絶対。後半の喘ぎ声くらい大目に見ろよ。こっちは死にかけなんだよバーロー。  
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