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やがて、男がこともなげに言った。
「お前、死のうとしてただろ?」
「えっ……⁉」
ズバリ言われて、うろたえる。
「な、なんでそんなこと…。」
「当たり前だ、今月こんな事見たの、三回目だからな」
「なっ……⁉」
流石に驚いた。この川で自殺者がそんなに…。
必然的に一つの疑問が浮かぶ。
「ちょっと待ってください‼自殺の話なんて聞いたことないですよ?」
この町は小さい。噂なんかはすぐ広まる。平和過ぎるのだ。
そうなると話題に餓えた主婦の連絡網はすぐに発達する。置き引き事件から、スーパーの特売品までなんでもありだ。
ましてや自殺事件なんて言ったら、話しに尾ひれどころか、背びれ、胸びれまでついて町内会まで動くだろう…。
そこまで考えた少年に一つの答がうかんだ。
「まさか…、その人達、全部止めてるんですか⁉」
「当たり前だろ。」
なんで聞くんだ?と言わんばかりに、男はあっさりと言う。
「なんでそんなこと…?」
「川が汚れるからな。それに見てみろ。」
サングラスの男はそう言って橋の下を指差した。
少年が男の指差した先を見るとそこには鯉が川を静かに泳いでいた。
上で喧嘩してたのなどまるで気付いていないような様子だ。
「でっかいナマモノが落ちてきたら、あいつらだってビックリするだろ?」
ナマモノ扱いにはとした少年だが、確かにその通りだった。
それに川を呑気に泳いでいる鯉を見ているうちに、心が不思議と落ち着いた。
はっきり言ってしまえば、この川は汚い。
高さが5メートルもあり、昔からのゴミや藻を掃除するのが大変なため、この川は善くも悪くも昔のままなのだ。加えて流れがないに等しい。
むしろ直線型の巨大な池、と言ったほうがしっくりくる。
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