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「こんな汚ねぇ川の中なのに、こいつ等はここから離れようとしねぇ。何故かわかるか?」
「…この川が住みやすいから…ですか?」
「違うな。こいつ等は『川の外』があることを知らねぇからさ。」
サングラス男は少年に向かって言った。
「お前、イジメられたらやり返せないヘタレだろ?」
…なっ‼
「何ですか⁉急に⁉」
カッとなって叫ぶ。
「図星か。まぁ、そんなとこだろうな。おおかたやり返すこともろくに考えねぇで、家にもいられなくて、死んじまえば楽になる。なんてくだらねぇこと考えてたクチだな。」
当たっているだけに何も言い返せない。
ふっ、と小さく笑いながら男は言った。
「…ま、ありがちでくだらねぇ悩みだな。」
「くだらないって何ですか‼僕は真剣に悩んでるんですよ‼」
自分自身の全てが否定されてるようで、少年が喰ってかかった。
「それはお前がまだ外の世界を知らねぇからだよ。
自分の身の回りの嫌なことばっか見て、文句だけは一人前にタレやがる。自分のケツすら吹こうとしねぇヘタレだからだよ。」
思わず、サングラス男の胸ぐらを掴み、にらみつける。
男は目をそらさず、少年を見据える。
「…あなたに何がわかるんですか…。僕は…嫌だって言ったのに…。」
「…ビビってたんだろ?自分より強そうな奴に。」
少年の目に涙がこぼれる。
悔しかった。
言い返せない自分に、
ここまで言われても殴れない自分に、
言われたことを認めてしまっている自分に、
無償に腹がたった。
殴るわけでもなく、ただ握りしめた自分の拳だけが痛かった。
「…悔しいか?」
男は自分の目の前で泣く少年に静かに言った。
少年の手を振り払うと背中を向けて言った。
「ヘタレで終わりたくねぇならついてきな。」
少年は訳がわからず、ただ背中を見た。男は一度だけ振り返ると言った。
「『川の外』を見せてやるよ。」
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