第1章 少年

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「こんな汚ねぇ川の中なのに、こいつ等はここから離れようとしねぇ。何故かわかるか?」 「…この川が住みやすいから…ですか?」 「違うな。こいつ等は『川の外』があることを知らねぇからさ。」  サングラス男は少年に向かって言った。 「お前、イジメられたらやり返せないヘタレだろ?」 …なっ‼ 「何ですか⁉急に⁉」  カッとなって叫ぶ。 「図星か。まぁ、そんなとこだろうな。おおかたやり返すこともろくに考えねぇで、家にもいられなくて、死んじまえば楽になる。なんてくだらねぇこと考えてたクチだな。」  当たっているだけに何も言い返せない。  ふっ、と小さく笑いながら男は言った。 「…ま、ありがちでくだらねぇ悩みだな。」 「くだらないって何ですか‼僕は真剣に悩んでるんですよ‼」  自分自身の全てが否定されてるようで、少年が喰ってかかった。 「それはお前がまだ外の世界を知らねぇからだよ。 自分の身の回りの嫌なことばっか見て、文句だけは一人前にタレやがる。自分のケツすら吹こうとしねぇヘタレだからだよ。」  思わず、サングラス男の胸ぐらを掴み、にらみつける。  男は目をそらさず、少年を見据える。 「…あなたに何がわかるんですか…。僕は…嫌だって言ったのに…。」 「…ビビってたんだろ?自分より強そうな奴に。」  少年の目に涙がこぼれる。  悔しかった。  言い返せない自分に、  ここまで言われても殴れない自分に、  言われたことを認めてしまっている自分に、 無償に腹がたった。  殴るわけでもなく、ただ握りしめた自分の拳だけが痛かった。 「…悔しいか?」  男は自分の目の前で泣く少年に静かに言った。  少年の手を振り払うと背中を向けて言った。 「ヘタレで終わりたくねぇならついてきな。」  少年は訳がわからず、ただ背中を見た。男は一度だけ振り返ると言った。 「『川の外』を見せてやるよ。」
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