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掃除屋は、粘着液の隙間から漏れていた僅かな湯気に気づかなかった。
粘着液が怪物の皮を薄く剥き取り、傷口から血が染み出していた。
体液は体表を伝って合金製の床板を溶かし、粘着液との接着面にも作用した。
もがいていた怪物は力任せに身体を突き上げ、脆くなった床板から粘着液を剥ぎ取った。
いくら強固な殻だろうと、一度ひびが入ってしまえば脆い。
固まりきった粘着液の繭の表面が割れ、爆ぜ、解き放たれた怪物は立ち上がる。
破片が辺りに飛散し、完璧だったはずの“蜘蛛の巣”が破られた。
あまりの事に、掃除屋は身を竦めた。
無理も無かった。数々の戦歴の中でも、“蜘蛛の巣”から逃れた蟲は1体もいなかったのだから。
蟲の進化に対する、掃除屋の敗北であった。
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