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追い風が、突っ立ったまま動かない俺にびゅうびゅうと吹きすさぶ。迷う俺の背を押しているかのようだ。
よし。風がこう言うんだ、俺が俺の頭で判断し俺の足でここまで歩いてきたのは間違いじゃなかったということにしよう。勇気を振り絞って進むんだ、俺。
──眼前に立ちふさがるは、国内で知らないやつはいない、その名を聞けば泣く子はもっと泣くヘルトアインツ聖士官学校。の校門。……いや、これは校門と呼んでいいのだろうか。芸術品のような──しかしとんでもなく厳つい──鉄扉がこちらを睨んでいる。大きさから見てもゆうに城門を名乗れる代物だ。
いや、いくら規格外な物だったからって高が校門、これ以上の描写は無用だろう、さっさと行くんだ俺。自分に言い聞かせて、足を進める。俺が何をそんなに恐れているのか? それは追々わかるだろう。
門の直前まで来ると、柱の窓から声が聞こえた。事務所かなにかにでもなっているのだろう。
「本校に何か御用でしょうか」
柔らかい老人の声。その落ち着いた響きのおかげで俺の緊張はいくらか和らいだ。
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