4月~幕開け~

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 改めて試験という単語を頭に思い浮かべると、また緊張がぶり返してきた。  試験官の説明によると、試験は筆記、剣術、魔導の三段階があるとか。……剣術はともかく、筆記と魔導は自信がない。  蒼輝石の鎮座するこの国では魔導を使えない者はそうそういないため、その恩恵をいかに多く受けるかで才が決まる。もちろん、努力によって後天的に伸ばすことも可能ではあるが──。俺は、小さなころ戯れに発動した魔導があまりにも不完全であったために友達に笑われたのが恥ずかしくて、それ以来一度も使った試しはない。殊、科学が発展してきた最近では、魔導に頼らずとも生活に不便を覚えることも少なくなってきた。まあそれは余談……。  試験まで残り一刻となり、いよいよ俺は一教室の机で筆記試験の始まるのを待つことになった。俺の他に座っている人間は五人。  他にすることもない俺は一旦席を立ち、少し離れた位置にいる一人の隣に座った。さすがに馴れ馴れしすぎるかとも思ったが、気を紛らわすには悪くないだろ。 「なあ、あんた筆記試験自信あるか?」  するとそいつはゆっくりとこっちを向いた。目が隠れるほど伸びた黒髪のもっさり感と反してなかなか整った顔立ちをしている。前髪の奥から覗く碧眼が特徴的で、肌は雪原を思わせるほど白い。そういう人種なのだろうか。 「俺か? ……まあ俺には失敗する理由はないから、自信があるといえばあるな」  ……話しかける相手を間違えたかも知れない。
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