8人が本棚に入れています
本棚に追加
とはいえ、話しかけたのはこちらだし、少し想定外の性格をした相手だったからって席を立つのはいくらなんでも失礼だろう。会話を続けた。
「ああ……そ、そうか。えっと、俺はウェルク・シーハンス。あんたは?」
「ふん……俺に名乗る理由があるとは思えんな」
自己紹介をさらりと流された上にこの態度、俺はいよいよさっさと見切りをつけて別の席へ移るべきだったと後悔した。立ち上がるか。そう思って机に手をついたその時だ。
「隣、良いかな?」
その声を聞き逃すはずもなかった。これが声変わりの完了した男子のものであったなら俺は平然と無視出来たであろうに、幸か不幸か聞こえた声は女子のものであった。ゆえに俺はこの不快な席を立つのを諦め、「ああ、どうぞ」と言うしかなかった。
隣に腰をかけたのは、肩までの外に跳ねる栗毛が目をひく、見るからに元気そうな娘だった。
「私、フェリア・シクィール。一人でいる人より、固まってるところのほうが仲間に入りやすくて」
と、聞いてもいないことを喋りだす。会話が持たないと苦しくなるタイプの人かもしれなかった。
「ふん、カンニングはするなよ……」
「だ、誰がするかよ!」
実は図星である。
「あはっ、頑張ろーね!」
それを見抜いてか否か、フェリアは無邪気に笑った。
そうしていると、思っていたより緊張の一刻は早く過ぎ去った。いよいよ筆記試験開始だ。
最初のコメントを投稿しよう!