届かぬ声

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部活はこんなだが、拓人たち三人はちょくちょく演奏活動を続けている。 夏休みの終わりには、一平の実家の洋食屋に加え、一平の父親に紹介してもらった喫茶店でも演奏した。 山の方にある小さな木造の建物で、標高が平地よりも高いからか夏にしては涼しく、緑もいっぱいで空気がおいしい。 ハイキングコースが通っており、お昼ご飯や休憩目当てに客が訪れる。 演奏は、「山メドレー」と称し、アルプスの少女ハイジ、青い山脈、夏の思い出など、大人から子供まで耳にしたことがある曲をメドレーにして演奏した。 温かいお客さんばかりで、麓の町の高校生であることを告げると大きな拍手をくれた。 司会進行は、あいりの担当だ。 口の両端にえくぼを作って、人なつっこい笑顔ではきはき喋るからか、いつも客受けがいい。 拓人は無愛想だし、一平はよくかむし、この三人の中ならあいりが適任であろう。 お礼に、と山菜を使ったパスタやサラダ、近くの牧場で仕入れた牛乳を使ったアイスクリームなど、普段はなかなか口にしないお昼をご馳走になった。
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