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「そうだ。
お前、毎日真面目に練習来てるからな。
どうせ、コンクール終わってから全員で集まる機会はないだろうから、今のうちに簡単に引き継ぎしておくわ。」
吹奏楽部の花形、トランペット担当だった篠原部長。
この部活にしては珍しく真面目に練習する部員で、よくこの窓の外に向かって練習する姿を目にした。
「そんな顔するなよ。
大丈夫、お前には松岡と西村がいるだろ。」
あからさまに眉間にシワを寄せ、不満丸だしの拓人に、篠原は一重の目を更に細めて声をかける。
風通りの良い長い廊下。
運動部のかけ声や、小鳥のさえずり、蝉の鳴き声、電車の踏み切りの音、様々な音が流れ込む窓の前で、先輩はいつも一人だった。
本当なら、こんな弱小部を自分が背負うなんてまっぴらだ。
しかし、練習する先輩の後ろ姿を思い出すと、断るにも断れなくなってしまった。
「……分かりました。」
「ありがとう、助かるよ。」
渋々承諾する拓人をみて、満足気に微笑む篠原。
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