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――こつん、こつん。
……静かな洞窟だ。
歩くたびに、自分の足音だけが、やけに大きく響く。
無数の氷塊は、私が歩むたびに、不安そうな私の姿をいくつも映しては消していた。
「えっと、ここは……」
入り口から続いた一本道が終わり、道はT字に分かれていた。
「ここを右に行った先の、突き当たりに……っくしゅんッ!」
私は道を右に折れて、その突き当たりで足を止めた。
「ざ、ざぶいいぃ……!」
早く済ませれば、それだけ早く帰れる。
私は目を閉じて――床に向けて手を伸ばした。
「……たからばこッ!」
呪文を唱えると、目の前には今まで無かった鉄製の重厚な箱が表れ、私に向けて大きな口を開けていた。
「えっと、中身は……。――あれ? なんだっけ、なんだっけ……!」
両手で肩を抱いてさすり、だんだんと勢い良く足ぶみをして身体を暖めながら思い出す。
場所も中身も、既に決まっている。間違えたものは入れられないし……そもそも、「本来あるべきでないもの」は呼び出せない。
「――そうだッ! 『アツアツおでん』だッ!!」
この宝箱には、消費アイテムである『アツアツおでん』を入れるのだ。
『アツアツおでん』は魔法の食べ物で、いつ食べてもアツアツ。
戦闘中には使えないけれど、これを食べればヒットポイントを少しだけ回復出来るのだ。
「よし! ――召喚っ! 『アツアツおでん』――ッ!!」
私がアイテムの名前を唱えると、宝箱の中には、小鍋に入ったおでんが召喚された。
「ふぅ……思い出せてよかった」
私は安堵のため息を吐くと、宝箱の中を覗き込み、『アツアツおでん』があるのを確認して……。
「……ごくりっ」
宝箱の中、湯気を立てているおでん。
……すごいあったかそう。
寒い、寒い……ああ、おでん。きっと、美味しいんだろうな。きっと、身体があったまるんだろうな。
がんもに、たまごに、私の大好きなはんぺんに……。
「……でも、ダメ。これは、いずれ訪れる勇者様が食べるんだから……」
私は、「さよなら、『アツアツおでん』」と呟き、そっと宝箱の蓋を閉めた。
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