仕事1 ダンジョン内に宝箱の設置

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 ――こつん、こつん。  ……静かな洞窟だ。  歩くたびに、自分の足音だけが、やけに大きく響く。  無数の氷塊は、私が歩むたびに、不安そうな私の姿をいくつも映しては消していた。 「えっと、ここは……」    入り口から続いた一本道が終わり、道はT字に分かれていた。 「ここを右に行った先の、突き当たりに……っくしゅんッ!」  私は道を右に折れて、その突き当たりで足を止めた。 「ざ、ざぶいいぃ……!」  早く済ませれば、それだけ早く帰れる。  私は目を閉じて――床に向けて手を伸ばした。 「……たからばこッ!」  呪文を唱えると、目の前には今まで無かった鉄製の重厚な箱が表れ、私に向けて大きな口を開けていた。   「えっと、中身は……。――あれ? なんだっけ、なんだっけ……!」  両手で肩を抱いてさすり、だんだんと勢い良く足ぶみをして身体を暖めながら思い出す。  場所も中身も、既に決まっている。間違えたものは入れられないし……そもそも、「本来あるべきでないもの」は呼び出せない。 「――そうだッ! 『アツアツおでん』だッ!!」  この宝箱には、消費アイテムである『アツアツおでん』を入れるのだ。 『アツアツおでん』は魔法の食べ物で、いつ食べてもアツアツ。  戦闘中には使えないけれど、これを食べればヒットポイントを少しだけ回復出来るのだ。 「よし! ――召喚っ! 『アツアツおでん』――ッ!!」  私がアイテムの名前を唱えると、宝箱の中には、小鍋に入ったおでんが召喚された。 「ふぅ……思い出せてよかった」  私は安堵のため息を吐くと、宝箱の中を覗き込み、『アツアツおでん』があるのを確認して……。 「……ごくりっ」  宝箱の中、湯気を立てているおでん。  ……すごいあったかそう。  寒い、寒い……ああ、おでん。きっと、美味しいんだろうな。きっと、身体があったまるんだろうな。  がんもに、たまごに、私の大好きなはんぺんに……。 「……でも、ダメ。これは、いずれ訪れる勇者様が食べるんだから……」  私は、「さよなら、『アツアツおでん』」と呟き、そっと宝箱の蓋を閉めた。
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