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「ええと、そのぉ……」 「…………」  一軒目の民家にお邪魔すると、住民の女性から、あからさまに敵意の篭った視線を向けられたる。 「ご、御免なさい……良いですか?」 「――なに?」  女性は腕を組み、今にも私に噛み付きそう。  ……同じ人間の姿をしているからか、洞窟の魔物程の迫力は無いのに、これから言わなきゃいけない事を思うと、精神的に辛くて、身を裂かれそうだった。 「……ええと、その……タンスに薬草を入れたいので、空きスペースを作って欲しいのですが」 「貴方、ふざけてるの? そんな事したら、私の服が薬草臭くなるでしょ?  ……それとも、服を全部出せって事? そのタンスは今日から、あんたのつじつま合わせの為の道具になるの? これから私は、一体どこに服をしまえば良いの?」 「う、うぅ……御免なさい、御免なさい」  ……迷惑をかけてしまい、非常に申し訳ない気分だった。  でも、これは仕方ないことなのだ。そうしないと、これから展開されるであろう物語の、つじつまが合わなくなってしまう。 「……良いわよ」 「えっ……?」  その女性は、吐き捨てる様に言った。 「約束だものねぇ? ……“この世界に住む住人”の」 「あ、その……それ、は……」 「あんたみたいな部外者には、プライバシーを侵害される苦しみは、分からないんでしょうねぇ?」 「…………」  答えられない。  どこでも無い場所に生まれ、どこでも無い場所に帰る私には、ちゃんと形のある家に住む人達の気持ちは、永遠に理解出来ない。 「……漁られるのよ? 下着も入った私のタンスが。“勇者”を名乗る、見知らぬ人間に」  ナイフの様に鋭い言葉を私に突き刺しながら、女性はタンスに空きスペースを作ってくれた。  私はタンスに手を伸ばして、 「……ひっく、……や、……やくそうっ!」  空きスペース、引き出しの開ければすぐ見える位置に、薬草がちょこんと添えられたのを確認して……タンスの引き出しを閉めた。
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