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夜、寝つきがよかったかと思えば、朝は最悪だった。明け方の夢うつつの中で、僕こそが悪者にされる様を見た。冴子が怯えた様子でこちらを見てくる。男がさげすんだ目でみてくる。周囲一帯の人という人が哀れみの眼差しを向ける。
ふざけた話だ。僕はデジカメをカバンに忍ばせ早々に家を出た。冴子といつも待ち合わせる駅に着くまで、デジカメを弄繰り回し、使い方を一通り把握する。最近のデジカメは便利だ。動画も撮れるのだから、具合のいい浮気の証を手に入れられよう。
駅に着くと冴子はまだ見当たらなかった。いつも通りだ。彼女はいつも僕との待ち合わせには遅れて現れる。こうして「日常」に触れてしまうと、冴子の浮気は、その非日常は白昼夢かあるいは勘違いだったのかとさえ思えてしまい、それを現実であればいいのにと望む自分を愚かしく感ぜられた。
やがて、十分かもう少し経った頃改札の向こうに彼女の顔が見えた。お互いに目が合うと、冴子はにっこりと微笑んだ。
連れ添って大学へと行き、講義を受ける。いくつかの講義は一緒に受けた。興味のある話は集中して聴き、興味のない講義は落書きをしたり居眠りをしたり。一年間変わらない彼女の姿だ。その様子を受けて、いよいよ臆病な僕は(勘違いだったに違いない)と確信した。
放課後、五限目を終えて様々の生徒が校門を抜けて帰路についている。僕は当然のように彼女と一緒に帰ろうとした。帰ろうとしたが、昨日のことを思い出し恐ろしさのため硬直する。すぐ隣には冴子がいる。一緒に帰るのを断られるのではないか。そんな不安だ。
「ねえ、一緒に帰ろうよ。帰りに池袋寄らない?」
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