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 二人並んで、言葉少なに学校へと至った。たくさんの学生とすれ違う。仲のよさそうな男女を何組見かけたか。今日は蒸し暑い。背の高い銀杏の陰が辺りに散らばっている。日差しを遮る。それなのにその影さえ疎ましかった。  授業の内容が頭に入ってこない。普段から真面目な生徒ではなかったが、この日は殊に酷かった。一日中、今後の彼女との付き合い方を考えていた。そうしてひとつの結論に達した。  小説を書こう。一刻も早く。大学を卒業する前に、小さくても構わないから何かしらで賞を取る。それまでは彼女の「財布」に食らいつく。彼女も自身の都合のいいように動いているのだから構うまい。ネタは決まった。この自分の愚かな様を描く。  気がつけば放課しており、このあといつもであるならば冴子と一緒に池袋か新宿かをぶらつき、小田急線にて帰るのであるが、どうしてもそのような気分にはなれなかった。ここしばらく日が短くなった。東京の背の高いビルヂングの向こう側は薄ぼんやりと蜜柑色になっている。大学の門を独りで抜け、そこで足が止まる。彼女を残したまま帰っていいものだろうか。一緒に居たらば一緒に居たで腹立たしさのために手を上げるかもしれない。いっそ今日については一人で帰ったほうがいいのではと思う。  坊主頭の顔が浮かぶ。もし僕が一人帰ればすかさずあの男を冴子が選ぶような気がしてならない。ああ、それこそ腹立たしい。僕は正門でしばらく彼女を待つことにした。  周囲の街灯がちらほら点き始める。と、だいたいそれと同じ頃、携帯が鳴った。
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