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『ワタシ達が壁の亀裂から人間界に渡り奴等と戦う、その間に対策を練ってくれ』
その言葉にそこに集まっていた幻獣だけでなく、絶え間なく動き続けていた他の幻獣でさえも驚きを隠せずに絶句していた。
『亀裂が出来たとはいえ、人間界へ渡るのは用意ではない』
『二人とも、無事では済まないかも知れないのですよ』
『それどころか、本当に渡れるかどうかすら』
幻獣達は口々に不安を漏らすが、竜と獅子の幻獣は決意の瞳を皆に向けると高らかに宣言した。
『ワタシ達は幻獣勇者と接触する』
竜の姿の幻獣の言葉を聞いて、大角鹿の姿の幻獣が二人の前に歩み出る。
『行くのですね、エスペリオン、サンレオン』
優しく包み込むような声は、二人の決意を確かに受け取っていた。
竜の姿の幻獣エスペリオンと獅子の姿の幻獣サンレオンは、静かに頷くと他の幻獣達に背を見せ一気に駆け出した。
そして幻獣が生み出される人間界との唯一の道、夢の泉へと飛び込む。
泉はどこまでも深く、けして底に着く事は無い。
沈み続けるといつしか宇宙の様な暗い空間に出る、〝境界〟と呼ばれる人間界と幻獣界の狭間だ。
この境界には人間界への干渉を阻む壁が存在し、幻獣達はその壁を越えることはできない。
しかし今その壁に亀裂が生じ、幻獣達が直接人間界に干渉できるようになってしまったのだ。
幻獣が干渉する分には問題ない、だがもう一つの存在は黙ってはいない。
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