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竜斗は特に慌てた様子も無く、山の頂から麓まで続く石段を下りて行く。
「ん、獅季【しき】じゃねぇか」
石段を下りる竜斗は、丁度石段の下を通りかかった少年の姿を見付けた。
「おはよう竜斗、時間ピッタリだね」
この少年は神崎 獅季【かんざき しき】、竜斗の幼馴染であり親友・ライバル・クラスメートでもある。
この獅季という男は容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群に加え性格まで良い、と三拍子どころか四拍子も揃ったモテる要素を詰め込んだような男だ。
ただし本人に自覚なく、知人からは朴念仁呼ばわりされ日々身に覚えのない殺意を向けられている。
竜斗が剣術道場の息子であるように獅季もまた古武術道場の息子で、竜斗とは良きライバルであり良き仲間でもある。
二人は何か特別な日以外はこうしてこの石段の下で合流し、すぐ先にある停留所に向かう。
今日もそれに変わりは無く、挨拶を交わし歩き出す。
「なぁ獅季、昨日の英語の宿題見せてくれよ」
「自分でやりなよ、勉強ついて行けなくなるよ」
日常的な会話、ごく普通の高校生である。
二人が停留所に着くのとほぼ同時に、バスが止まりドアを開く。
ここで遅れればそのまま歩いて行くのだが、今日は間に合ったようだ。
「セーフ」
言いながら竜斗が乗り込み適当な席に腰を下ろす、獅季もそれに続く。
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