朝一番

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「相田くんー。」 小さく囁くような声。 こいつが原因なんだ。 「なに、先生。」 俺は、あえて冷たく言い放つ。 周囲の視線が、いくつかこちらを向いた。 「あっ…皆さん、集中っ集中!」 慌てながら手を二回叩く。 今は、英語の小テストの時間だ。 「そ、相田くんっ。大きい声出したらダメじゃない。」 再び、耳元で囁く。 こ、この慌てた感じがたまらない… この人は英語担当の矢田先生。 下の名前は、なんだったか。 何故か入学当初から気に入られ、授業中もこうして寄ってくるのだった。 まだ若く、20代前半くらいだろうか。 男子からは人気があるようで、俺も例外ではない。 俺が好かれているのはクラスの奴らも知っていて、その度に嫌味を言われる。 中には信者もいるくらいだ。 擦れたメガネの上から、潤んだ瞳が覗く。 「相田くんーっ、先生、今日いつもより可愛くない?」 「…え?」 いつも可愛いが。 「だって、今日お化粧変えてみたのっ。」 ぐいっと顔を寄せる。 大きな瞳に、ぷっくりした唇、背中まである長い栗色の髪… なによりも、その豊満な胸!! 「ちょ…ちょっと先生っ…」 やばい、良いにおいがする! 可愛いすぎるっ!! 男子諸君、すまないが先に行く。 俺は心の中で敬礼をした。
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