胸の傷と、仕組まれた偶然

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「胸の傷、気になる?」 窓から沖田を嘲笑っているかのような月光が、時音に不気味に降り注ぐ。 時音は月に背を向けていて、顔容が影で覆われ、三日月に嗤っている口元だけが怪しく見える。 月をも従わせているような時音に、自分の全てを見透かされそうで、実際今図星を指され目を見開き息を呑んだ。 「……どうして、そう、思うんだい?」 今にも時音の背後の不気味な黒いオーラに捕食されそうで焦り、逃げたくなるような衝動が心を占領する。 それを表に出さないように必死にその感情を捩じ伏せようとするが、クスリと時音が笑いを零したため身体が僅かに震えてしまった。 「そんなに脅えなくて大丈夫だよ」 艶が含んだ声で警戒心を解こうとするが、やはりあの黒いオーラに肌が反応してしまうので、警戒するなというほうが無理だ。 いくら何人何十人と人を殺し殺気にも屈しない沖田だが、時音のオーラは今までに感じたこともない異質なものなので、どう対処していいのか分からないのだ。
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