胸の傷と、仕組まれた偶然

7/11
2360人が本棚に入れています
本棚に追加
/113ページ
「……ひとつ、話をしようか」 スゥ、と目を伏せるように閉じ、背後にある月を眺めるために体の向きを変えて、時音はぼんやりと月を見上げた。 「……あるところに、1人の女の子がいました」 「……」 「女の子は、自分が今いる世界が、住んでいた世界とは違うことに気づきました」 「そこは、今の女の子が生まれる前の女の子の世界でした」 「……つまり、その女の子は、時音ちゃんと同じように、たいむすりっぷをしてしまったってわけ?」 問いに頷き、再び話を続ける。 「その女の子は何かに導かれるように歩き、かつては村だった場所に辿り着きました」 「そこは荒れ地になっていて、草木は萎れ、田や畑は干からび、家は半壊していたり、粉々になっているところもありました」 沖田は静かに深呼吸すると、先を促すように時音を見つめた。 そのとき、ヒュウ……と風が窓から入り込み、二人の髪を静かに揺らした。 「……そして、ある全壊した家の場所を見た女の子は、全てがわかりました」
/113ページ

最初のコメントを投稿しよう!