胸の傷と、仕組まれた偶然

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「……やっぱり、ね……。そんな感じが、してた」 「……女の子はロウと呼ぶ男の子のお蔭で体力を取り戻し、ロウの明るい性格によって、少しずつ性格が明るくなってきていて、順調に思えました」 「……ですが、2人が町に出た帰りの道端で、それは起こりました」 眉を寄せて瞳を閉じ、厳しい顔をする2人。 「酒で酔った武士2人が、女の子にぶつかったのです」 「女の子が避けたにもかかわらず、1人の武士がよろけてぶつかり、武士は自分の否を認めず、斬り掛かって来ました」 「試衛館に弟子入りし、既に剣の才能に優れていたロウは、念のためにと木刀を持たせてもらっていたので、武士に立ち向かい、1人をなんとか気絶させ、女の子と逃げようとしましたが、後ろからもう1人の武士が襲い掛かって来て、避けるのは無理だとわかったロウは……」 ぎゅ...と時音の握った手に力が篭ったのを見た沖田は、時音が再び口を開くまで焦る気持ちを抑え、辛抱強く待った。 「……女の子を庇い、右胸から左脇腹にかけて、大きく……斬られました」 少し震えた声が沖田の耳に入ると、今まで続いていた頭痛が一瞬で引き、迫り上がっていた気持ちがストンと胸の奥で落ち着き、次々と抜けていた記憶が頭の中に流れ込んできた。
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