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私は、数泊分の着替えを用意したシルバーカラーのキャリーを、乗用車の後部座席に放り込んだ。
母が亡くなった。その訃報を聞き、私は身支度をし終え、マンションの地下駐車場にいる。
目の前には、この間買ったばかりの新車、ルージュ色のマイカーが光を放つ。
18歳で実家を飛び出して、あれから10年間、男に媚びる事や、親にも頼らず今日まで頑張って来た。
ずっと独り身だった訳でもないが、世の中は甘やかせば甘ったれる男達ばかりなのかと諦めに近い思いは持っている。
運転席の扉を開き、乗車。エンジンキーを回し、シフトをドライブモードに切り替える。
――午前0時半、待ち合わせの場所に遅れて弟はやって来た。
「ごめん、姉ちゃん!」
都内某所の地下鉄駅前、私は弟の酒臭い匂いに過敏に反応した。
「あんた、飲んでんの?」
眉に力が入る私を見計らってか、弟は少ししょぼくれる。
「タイミング、だよ。」
それもそうね、急な訃報だった訳だし。
弟は、都内の大学に通う学生で、私の優しさを足蹴にしてまでのアパートで、一人暮らしを満喫しているみたい。
ただ、父親の破格の仕送りのお陰で、アルバイトすらもしない甘ったれだ。
「最近、学校はどうなの?」
車を発進させ、他愛も無い問いを弟に投げかける。
「どうって…?」
「ちゃんとサボったりしないで学校行ってるの?」
「ま、まあ、ボチボチ。」
「はあ、あんたね、親の仕送りでこっちに出て来れてんでしょ?少しはシャキッとしなさいよ!」
我が弟ながら、情けない。元々、意志力が無かったせいか、周りの環境に流されやすい所は昔からあった…が、甘ったれだ。
私なんかは、全部1人でやって来たってのに。
「ご、ごめん。」
弟の情けない詫びに、イラッとした私は、少し乱暴にハンドルを切った。
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