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豪雨の降り続く高速道路の上、私の運転する車は同じ色合いの光景を突き進んでいた。
まだ、実家までは距離がある。長い移動だ。だからこそ、弟には話し相手として起きていて貰いたかったのだが、案の定の結果だった。
母親との昔の思い出を振り返る。それは、部屋いっぱいに笑い声が溢れていた…。
お調子者の父親が、私と弟を笑わそうと精一杯の愛情を振り撒く中、その光景を愛らしく見守る姿。
台所で、夕食の支度を手伝う私に、ゆっくりと丁寧に教える優しい笑顔。
それらが、形も色彩も鮮明なまま、グルグルと私の頭の中を回転し始める。
「お母さん」
吐いた言葉にグッと目頭が熱くなる。『亡くなった』…父親のその言葉を僅かに受け入れてしまったのかもしれない。
「ん、んん…」
横目に入るのは、目覚めたばかりの弟がゆっくりと体を伸ばす仕草。
私は、悟られまいと、手の甲で潤んだ瞳を素早く拭う。
「起きたの?」
「ん、うん、まあ」
「もう少し、掛かるわよ」
「うん」
「ふぅ、ところで、あんた、この間の彼女…なにちゃんだっけ?元気してるの?」
「あ、あれとは終わった」
「あれとはって、あんた、また彼女変わったの?」
「ん、まあ」
「はあ、信じらんない!あんたみたいな奴は、いつか女の子に相手にされなくなるわよ!」
「……姉ちゃんは?」
「うるさいっ!」
私は、怒りに任せ、アクセルを思いっ切りベタ踏みにした。
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