刻印

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「三木、御遺族には?」 「はっ、先程連絡を入れた模様です!」 凛とした物腰で姿勢よく返答するんだが、何と言うか…間の抜けた顔、腹のたるみに視線を送ると、シャキッと見えて来ないのが残念だ。 「ん~、遺体に外傷は無かったって…?」 「はっ、この渓流の岩場の周りを捜査してる最中ですが、争ったりした形跡等は発見されていません。」 「持ち物なんかは?」 「えぇ、それがですね…発見された時に、バックは肩から下がったままの状態でした。」 「…うん、そこ何だよな。」 「はっ?と申しますと?」 俺は、一度、若いカップルの方へ視線を送る。次に、滝の流れる岩場の上、そして渓流。 「中身に、身分の分かる物が入っていたんだよね?」 「はっ、財布の中に保険カードが入っておりました。」 「財布の中身は、いくら入ってたの?」 「は?いく…らですか?」 「お金だよ、お金。」 「あ、はい。今確認を取って来ます。」 そう言い終え、三木は鑑識班の方へ、鈍い動きで駆け出して行った。 自殺の線は、限り無く零だな。登山中に足を滑らせた、なんて言うのも稀にはあるが、一般的に考えても、1人で登山道に来る理由が無いな。 もし、趣味なのだとしても肩から掛けるバッグは無い。知識の無い俺でもリュックを選ぶ。 人目を避け『誰か』と密会でもしていたのか…そこで、衝動的に……。はたまた、犯人によって、じっくりと計画を練られたのか。
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