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「・・・ハルさん」
これを預かってって欲しい。
カウンターに置いたのは炯が先程まで指につけていた赤のリング。
『夜叉』の幹部のみに着けることを許されたそのリングを炯は外したのだ。
当然ハルと呼ばれるマスターは眉間に皺を増やした。
外すということはチームから脱退するということ。
その事をなぜ自分の目の前で行うか。
まさか炯はメンバーの脱退の制裁を恐れているのか。
「・・・てめぇ、」
カァッ、となってカウンター越しに炯の胸ぐらを掴む。
「炯、てめぇ腑抜けたかっ!!このリングを外すってことはチームを脱退するってことだ、何故それを彼奴等の前でやらねぇ!!?」
「・・・・てん、こー・んだ、」
ガクガクと揺さぶるハルには微かに聞こえた。
転校?
「お前・・・」
掴んでいた胸ぐらを離す。
炯はぐちゃぐちゃになった学ランに構わず話を続ける。
「・・・元から別居してた"彼奴等"が離婚した。俺の親権をどっちにするかで揉めて、結局俺は親父方の叔父に引き取られる形になった。カントーの方へ行くことになった。・・・ダッセェよな、未成年の俺はまだ大人の言いなりにならなきゃならねぇなんてよ」
耐えるように握りしめた拳。
炯はけして己の口からは言わないが、『夜叉』のチームやメンバーを認めていた。
それは長年『夜叉』のチームを、メンバーを見ていたハルは勘づいていた。
他愛のない話で盛り上がるbar。
メンバーの笑顔が絶えなかった。
それを定位置である隅のカウンター席で見ていた炯。
ハルは知っている。
ここがbarのフロアを全て見渡せる
席だということを。
「・・・脱退するわけじゃない。3年、3年で戻って来る」
それまで預かってって欲しいんだ。
「ハルさんだから頼んでる。・・・初代・・・"赤鬼"」
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