第八六一四話

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第八六一四話 舞台設定:夜の学校 登場人物:鬼に憑かれた少女全員 シナリオ:最後の一人になるまで殺し合う ――――以上 そこでアヤメは“覚醒”した。 真っ先に目に入ってきたのは、口から血を垂らすハロウィンのカボチャのような、玩具みたいに紅い月。 背中からは不快に湿った、ざらざらと固い感触。 どうやらアヤメはコンクリートの上に大の字になっていたらしい。 「あー、また始まりやがったかぁ……」 アヤメは気だるげに呟いた。 しなやかな足を軽く上げ、その反動でふわりと立ちあがる。 重力を感じさせない身軽な動きだった。 アヤメは女子としては長身で、制服に包まれた手足はすんなりとのびている。 白い肌は夜の闇に淡く浮き上がって見えた。 顔つきはまさに大和撫子、“あなにやし、えをとめ”そのものである。 「ふーん、なるほどね」 アヤメは闇色の目で周囲の状況を確認した。 ここは校舎の屋上であるらしい。 風はない。 だが膝まであろうかというストレートの黒髪は、ほっそりした体を覆うようにゆらゆらと蠢いている。 制服をはたいて砂埃を落とす。 足元には剣が一振り。 アヤメは細い指で軽々とそれを持ちあげた。 鞘などない、抜き身の刀だ。 殺気だった蛇のような、冷たくぎらつく光を放っている。 「夜薙(ヤナギ)、おまえも起きたか?」 周囲には誰もいない。 けれどその声はすぐ側から聞こえてきた。 (起きてるよぅ。アヤメちゃんと僕は一心同体だもん♪) 童子のような声で答えたのは鬼だった。 アヤメにとり憑いた妖かしだ。 「今度は夜の学校でケンカだと」 (良かったね、アヤメちゃんにぴったりのシナリオで。前回は噛ませ犬役だったもんね) 「とりあえずド派手に動き回ってパンチラでも見せつけとけってことだろ? 深夜のアニメ枠でも狙ってんじゃねぇの?」 (そいえばアヤメちゃんのパンツには『Go to Heaven !!』って書いてあるよね) 「見た奴はあたしが全部殺しちまうかんな」 (色んな意味で天国行きだよね) 夜薙は天使のようにクスクス笑う。
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