第八六一四話

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その時、屋上の扉が開いた。 現れたのはアヤメと同じく制服姿の少女。 「さっそく一人目のお出ましか」 相手はどこぞの留学生かと思うような金髪碧眼で、ベルバラのように笑えるくらいの巻き毛だった。 その手にはグリム童話の死神が持っているような、体よりも大きな黒い鎌。 可憐な少女には全くもって不釣り合いな代物だ。 「それがおまえの鬼か」 アヤメは三日月よりも細く細く、ニタリと笑った。 相手も華やかに煌びやかに、狂気を宿して微笑む。 「そうです、これがわたくしの相棒。それでは始めましょうか、極上の暇つぶしを」 「ああ、最高に最低な宴をな。行くぜ夜薙!」 (わかったよ。でもちゃんと僕を使ってよね) 月がケタケタ笑うような音を立てて、アヤメの剣が唸った。 校舎内の空気はコールタールのように粘っこかった。 腐った人参と鉄錆の混ざり合ったような悪臭が充満している。 周囲を漂う血煙りのせいだ。 廊下にいた少女たちをアヤメはあっさりとバラしていった。 白い足で駆けるたび、長い黒髪が闇を引きずるようについてくる。 夜薙が耳元で、とあるロック歌手の曲を口ずさんでいる。 (♪~ We are routine Joker! Kaleidoscopeを善か悪か哲学するなんて、なんて、なんて、Nonsense!) 「ひっ」 戦意を喪失した少女が一人、床の血溜まりに滑りそうになりながら逃げ出した。 「馬鹿が。今回のシナリオ理解してねぇのかよ」 アヤメの髪がざわめく。 華奢な足で、とん、と、スキップでもするような軽さで床を蹴る。 瞬間、神猛るスピードでアヤメの体は跳躍した。 剣が逃げる少女の胸を貫く。 アヤメは唇の片方を釣り上げた。 「ぐっばぁ~い」 少女は血を吐き、アヤメはその体を蹴り飛ばして剣を引き抜いた。 校舎内は青い霜のような月光に照らされて、海の底にいるようだった。 その中を少女たちの残骸が転がっている。 赤黒い粘液が飛び散り、溜まり、引きずられ、天井、壁、床、その全てが、芸術は爆発だとでも言う奴の作品みたいになっている。 鎌を持った少女を手始めに、アヤメは出くわした相手全員を斬り殺してきた。 自分は無傷のまま、それが当然とでもいうように飄々としている。 「うーん、あらかた殲滅しちまったな。こっから先は自分から探しにいかねーと」 (かくれんぼで鬼に見つかっちゃった子は、頭からとって喰われちゃうんだよね~)
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