第八六一四話

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図書委員(仮)の少女は、怯えたウサギのような仕草で後ずさる。 彼女が息を吐いた瞬間、何かが凄まじい速さで飛んできた。 アヤメは横に跳び退く。 飛んできたのは透明なビー玉のようなものだった。 壁にめり込んで周囲にヒビまで入っている。 生身の体でくらったらひとたまりも無いだろう。 「ふうん? おまえの鬼の力は、口から吹き出す弾丸か」 「いやあああああ!」 図書委員(仮)の少女は、攻撃を避けられたことで恐慌状態に陥ったらしい。 狂ったようにビー玉を打ち出してくる。 それを剣で弾きながら、アヤメは彼女に駆け寄った。 (♪~ がむしゃらに降り注ぐ滅びの雨に、やがて世界は閉じられる、次の世界は自分じゃ選べない) 少女は後ろに下がろうとするが、アヤメの方が動きは速い。 それは一瞬だった。 アヤメが少女の顔を真正面から見つめる。 それこそ唇が触れ合うほどの距離で。 視界全てがお互いの顔で埋め尽くされる。 アヤメは、ニィ、と笑った。 次の瞬間、少女の口は黒い糸のようなもので縫い付けられていた。 「ん―――――!?」 「口は封じた。これであたしの勝ちだ」 糸をひっかこうとする少女を、アヤメは壁に叩きつけた。 だが、剣で止めを差そうとして、ふとその切っ先を止める。 「さっき中ボスが言ってたんだけどさぁ、ここもひとつの宇宙だと思わねぇか? あたしらも無限の存在だろ? 望まれりゃ何度でも現れ、他の奴と混ぜ合わされたり、分裂させられたり、改変されたりして、いつまでもどこまでも続いてく」 今回は夜の校舎で殺し合いをさせられているが、次回はいったいどこで何をさせられるのか。 どんな設定が追加されて、削られて、誰と誰が登場するのか。 「ここはコスモスとカオスが混ざり合った金魚鉢。生まれちまった場所で泳がされて踊らされて、その中で精一杯自分のキャラクターを楽しんでみるのも悪かないと思うぜ?」 少女は聞いているのかいないのか、痙攣でも起こしているのではないかというくらいの激しさで震えている。 アヤメは自分らしくないことをしていることに気づき、自嘲気味に笑った。 「じゃ、ラストと行きますか」
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