第八六一四話

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だがその瞬間、図書委員(仮)の少女の、髪で隠れていた左目から弾が飛んできた。 それは今までとは比較にならないほどの勢いでアヤメの額に直撃する。 アヤメの体は吹っ飛び、机を弾き飛ばしながら後ろの黒板に叩きつけられた。 そのままずるずると床に滑り落ちていく。 「ふぅっ……ふぅっ……」 図書委員(仮)の少女はゆっくりと壁から体を起こした。 この至近距離からの攻撃だ。 しかも確実に命中した。 アヤメはピクリとも動かない。 俯いた体は長い黒髪に包みこまれている。 少女は自らの勝利を確認した後、唇に縫いつけられた糸を解きにかかった。 だがそこで気づく。 これは糸ではない。 何か他の、違うもの――。 「いってえええええ! ちゃんと護れよ夜薙!」 (えええええ? ここは咄嗟にアヤメちゃんを庇った僕を褒めるとこでしょおおお?) びくん、と少女は信じられないものでも見るかのようにアヤメを見つめた。 彼女にとってあれは最後の手段だった。 それなのにアヤメは顔をしかめながら起き上がる。 多少の痣は出来ているが、それ以上のダメージはない。 アヤメの前髪からぽとりと丸い物体が落ちる。 打ち出された弾丸だ。 アヤメの額には赤く跡がついているだけだった。 転げ落ちた物体を拾い上げて、アヤメはへぇ、と呟いた。 それは今夜の月みたいな赤い目玉だった。 「なるほど、おまえの鬼の本体は左目か。そこから零れた涙が口に入って、ショットガンのように飛んでくると。確かに、鬼の正体を隠しとくってのは得策だな」 アヤメは掌でヌルつく目玉を弄んだ。 「ふっ、んんんっ……」 口を閉ざされたままの少女は言葉が発せない。 膝が笑って立つこともままならず、教卓にしがみついている。 アヤメはゆらりと首を傾け、妖かしのごとく微笑んだ。 「どうして生きてるかって? 鬼の正体を隠してるのはおまえだけじゃねぇ。剣はただの趣味。夜薙がとり憑いてんのはあたしの髪だ」 (えへへ、僕が包みこんで護ってあげたんだよ~。他にもアヤメちゃんのジャンプを後押しするとか、相手の足に絡みつくとか、吹き飛ばされた剣を拾ってくるとか、裏方でけっこう頑張ってたんだけどね。ちなみに君の口を縫いとめたのも僕でぇ~す♪)
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