第一章

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「ぷはっ!何だったんだよ!まったく…」 花びら食べちゃった!なんて言いながらゆっくりと目を開けるとそこには桜。 だが、何かがおかしい… 「この桜…こんなに小さかったっけ?」 確かに目の前には桜がある。けれど先ほどまで見ていた桜に比べると、大分小さい気がする。 「なんだ貴様は」 気のせいかと思っていると、後ろから声がした。 くるりと後ろを向くと、そこには着物を着た青年が立っていた。 肩より少し短い茶色い髪に、少しつり上がった目。そして雪の様に白い肌の青年は私を見て眉間に皺を寄せた。 「このような刻限に女が一人で出歩くものでは無い。」 そう言って近づいてきた青年は私の服を見て眉間に更に深く皺を刻んだ。 「貴様、見慣れぬ着物を纏っているが南蛮の者か?…否、まさか殿の首を狙う間者か!?」 青年は腰に差していた刀に手を伸ばし、間合いを取る。 「はぁ?何言ってるの?ただのシャツとジーンズじゃん。私にしたらあんたの格好の方が見慣れないよ?それに殿って誰?」 私の言葉に青年はぽかんとした表情を浮かべた。 「しゃつ?じーんず?何だそれは、異国の言葉か?」 「異国の言葉って言えばそうだけど、アンタ頭大丈夫?平成の世の中でそんな事言う人に初めて会ったよ…」 そう言うと、青年はまたもや眉間に皺を寄せた。 「平成…?なんだそれは?年号か?」 「本当に大丈夫?平成22年!それが今の年号!」 「何を言うか!今は天正十年だぞ」 青年の言葉を聞いて、今度は私がぽかんとなる番だった。天正10年といったらたしか1582年。428年も昔の戦国時代じゃないか! しかも1582年と言えば本能寺の変が起こる年だ…無駄に詳しい日本史の知識が役に立った。 でも納得せざるを得ない。さっきから車の音だとか、人工的な物の音が一切しない。 いくら人通りが無くたって近くを通る車の音位はするはず…。 それにこの青年の着ている着物、そして腰にある刀…。 異質な存在が青年ではなく私の方だと示している証拠だ。
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