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「儂の持ち主は…その女を愛しておった。鬼になる前も、なってからも変わらず。しかし、人を食らい始めたその女はもはや人でなくなった為、とうとう討伐命令が出た。儂の主はそれに名乗りを上げ、結果女を自らの手に掛けたのだ」
どうか、私の思いが伝わるように
この刃に全てを乗せて、貴女の胸を貫こう
その心の渇きが癒えるように
深く、愛してると伝えよう
「女の亡骸を抱きながら、主は哭いた。まるで獅子の如きそれは悲しみに満ち、ある願いを儂に込めた」
いつかまた、生まれ変わり何処かで会えたなら
その時はきっと、互いに幸せになろう
「…それは今も儂の中で息づいておる。あの女に逢いたいと、切に願う想いがな。恐らく、それが叶うまで儂はいつまでも主を変えてはさ迷うのだろう」
ふと、泰彦の頭に祖父の言葉が浮かんだ。
【老い先短い年寄りでは、『こやつ』の想いを見届けてやれんからの】
本当に面倒な奴を押し付けられたものだと、改めて泰彦は祖父を恨めしく思った。
今夜にでも電話して、文句の一つでも言って
それから…
「終わったあぁあぁ~!!」
歓喜の声で万歳する菫を、泰彦は「うるせぇ」と諌める。
しかし、その眼差しは暖かく、泰彦の優しさが見てとれた。
…全く、不器用な愛し方しか出来ぬ男よ
まるでお前のようだな、綱
自分の中に静かに眠る、かつての主の面影が泰彦と重なる。
「泰君~お腹空いたし何か食べ行こう!お礼に奢っちゃう!」
軽やかな足取りで、返事も聞かず部屋から出ていく菫に呆れながら、泰彦は鬼切丸を見上げた。
「…行こうぜ、鬼切丸」
それから、爺ちゃんには心配すんなって笑ってやろう。
「ふん、急に主ぶりおって生意気な」
そう言って、鬼切丸は小さく微笑んだ。
明日から、新学期。
泰彦と鬼切丸の運命が、緩やかに訪れる秋の足音と共に、鮮やかに色付き始めた八月の暮れ。
~fin~
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