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「ふ…ぅ…?はれ?」
目覚めた菫は、寝惚け眼で辺りを見渡す。
「やぁっと起きたか。人ん家でヨダレ垂らして爆睡すんじゃねぇよ」
ベッドで本を読みながら、泰彦は何もなかったように口を開いた。
「え!嘘寝てた!?いつの間に!…て、ヨダレ垂らしてなんかないもん!」
慌てて口元を拭う菫に、泰彦はクスリと笑った。
「それよりプリント、終わってないみたいだけど?」
「…あぁっ!!まだ半分しか写してない!泰君~手伝ってぇ!」
「ヤダね。こんなギリギリまで宿題残して人のを写すなんて卑怯な奴の手助けなんてしません。自分で何とかしなさい」
「うわぁ~ん!泰君の鬼いぃ~!」
「鬼を斬った本人が鬼呼ばわりされるとは、何とも滑稽ではないか」
頭上でフワリと浮かびながら笑う鬼切丸に、泰彦は小さく「うっせ」と返した。
そして、その笑顔にあの時の感情を思い出す。
あれは恐らく、鬼切丸の記憶の欠片。
あんなに哀しくて、苦しくて張り裂けそうな痛みを持ちながら今、鬼切丸は笑っている。
「…返事は出来ぬだろうからそのまま聞いてくれれば良い」
そんな泰彦の視線に気付いてか、鬼切丸は表情を曇らせた。
「儂とて、何も初めからこのような存在だった訳ではない。儂の持ち主であった者が、ある女を斬った事が始まりであった」
泰彦は黙って紡がれる言葉に耳を傾ける。
「女は本来は優しく美しい娘であった。しかしいつからかその心は蝕まれ、男女問わず人間を憎むようになり、人ならざる力を求め奇行に走った後、ついに自らを鬼と化した」
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