獅子ノ哭ク頃二

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未だ暑さが厳しい八月の暮れ。気休め程度に風を送る扇風機がカタカタと首を振る。 「おい、おい泰彦!!」 体感温度を更に上昇させるような熱さを含む声色に、顔に被せていた文庫を少しずらす。 「…なんだよ」 至極面倒臭さそうにそう言うと、泰彦は横になっていたベッドの脇に仁王立ちする人物を横目で見た。 「いい若いもんが昼間から怠け呆けて情けない!少しは体を鍛錬せんか!」 そう言い放つのは、今の時代には不釣り合いな格好をした、自分と同じ年の頃の少年。 長めの髪を高い位置で結び、直衣を簡略化したような服装と高めの下駄。 何故、彼がこんな出で立ちをしているのかという答えは簡単な物で、要するに『その時代の頃の人物』だからである。 「全く、この国の若者は一体どうなってしまったのだ…武芸や勉学をせず、かといって働きもせずこのように一日死人のように横になって…」 「だぁ――!!うっせぇ!お前の居た時代と今は違うの!俺は今!学生ってやつで働かなくてもいいの!勉強は学校でやってるし今日まで夏休みっていう休養期間なんだよ!!」 苛立った泰彦は、捲し立てるように言葉を爆発させた。 はぁはぁと肩で息をする泰彦を、少年はポカンとした顔で見下ろしている。 「ふむ、そうか。休養中であるなら仕方がないな。して、何の病を患っておるのだ?」 「いや…別に病気とかそういう事じゃ…」 「違うのか?健康であるなら何故休養する必要があるのだ?」 純粋な瞳で詰め寄ってくる少年に、泰彦はクタリと首を項垂れさせ、深い溜め息をついた。 何故こんな面倒な事になってしまったのか。 それは数日前に遡る。  
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