獅子ノ哭ク頃二

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帰省していた母方の田舎で、祖父に蔵の片付けを頼まれた。 そこには古物商をしていた頃の品々があると言うので、前から蔵の中身が気になっていた事もあり二つ返事で承諾した。 大人二人が入ると少々狭いその中には、年代を感じさせる皿やら壺やらがあったが、どれくらいの価値があるのか等、平凡な高校生に分かる筈もない。 ふと、奥の方の壁に立て掛けられた日本刀が隙間から見えた。 「爺ちゃん、あれ本物?」 「どれ…お…おぉあれは!」 祖父は驚きのままその刀を奥から取り出すと、積もっていた埃を払う。 「髭切丸じゃないか、あんな所にあったとは」 「髭…切丸?」 「そう、別名『鬼切丸』とも呼ばれる、名の通り鬼を切ったとされる刀じゃよ。この家に代々奉られてきたんじゃが、まだ爺ちゃんが小さい頃に火事があってな、てっきりその時に焼けてしまったかと思っていたが…」 祖父は懐かしそうに目を細め、鬼切丸をそっと撫でた。 「へぇ…逸話付きの刀かぁ」 埃を払うと、他の品物とは違い劣化していない鞘は美しい漆の黒を艶やかに光らせている。 祖父はそれを泰彦の前に差し出した。 「泰彦、これはお前にやろう」 「え!!?でもこれっていわゆる家宝ってやつじゃないの?そんな簡単に!?」 「この刀には持ち主であった源綱の魂が宿っておるでな。持つ者は強く慈愛に満ちた心を得ると言われておる。泰彦には、そういう心を持って欲しいのじゃよ」 にこりと優しく笑い、泰彦の手に刀を預けた。 「…それに老い先短い年寄りでは、『こやつ』の想いを見届けてやれぬからの」 「…?」 泰彦はその言葉の意味よく理解出来なかったが、断れず鬼切丸を譲り受ける形となった。  
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