獅子ノ哭ク頃二

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再び部屋に戻った泰彦は、プリントと格闘する菫の背中を見つめた。 「…うわ!?無言で背後に立たないでよ~!…?」 驚いて振り返った菫は、その様子がおかしい事に首を傾げた。 「何?私の顔に何かついてる?」 「あ、いや別に…。コ、コーラしかなかったけど」 よそよそしく冷えた缶を手渡し、泰彦はそのままベッドに腰を下ろした。 「わ~いありがと!…ケホッ」 小さく咳をする菫に目をやり、注意深く観察してみる。 【あの娘は鬼に巣食われている。もう一度その目で見てみるがいい】 別段変わった様子もないし、鬼の魂なんて物も見えない。 「なんだ、咳なんかして風邪か?」 「ん~、最近ちょっと調子悪くて…やだなぁ明日から学校始まるのに」 そういえば、走って来たせいだと思っていた顔の赤みが増している。 「お前さっきより顔が赤いぞ、熱でもあるんじゃ……っ!?」 一瞬、ぼんやりと菫の姿が霞んだ。 黒く淀んだ影のような物が、菫の背後に燻っている。 「…鬼とは何も化物や物の怪のような異形の姿をしておる訳ではない。言わば人の心から生まれる思念のような物だ」 鬼切丸は、言葉を失っている泰彦の隣にふわりと降り立った。 「負の感情を持って死した者の魂は、成仏出来ぬままさ迷う事が多い。その思念が強い程、さ迷った年月が長い程、より邪悪な物へ変わり肉体を求め始める」 黒い影が、菫の体を浸食するように広がってゆく。 「…まぁ、見た所あの娘の中に入り込んでまだ時間は経っておらんようだが、その兆候が外にも出始めておるな」 「あれ…おかしいな、何か力が抜けて…」 菫の指が小刻みに震え持っていたペンが床に落ちると、身体の力が抜けたように机に伏してしまった。  
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