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再び部屋に戻った泰彦は、プリントと格闘する菫の背中を見つめた。
「…うわ!?無言で背後に立たないでよ~!…?」
驚いて振り返った菫は、その様子がおかしい事に首を傾げた。
「何?私の顔に何かついてる?」
「あ、いや別に…。コ、コーラしかなかったけど」
よそよそしく冷えた缶を手渡し、泰彦はそのままベッドに腰を下ろした。
「わ~いありがと!…ケホッ」
小さく咳をする菫に目をやり、注意深く観察してみる。
【あの娘は鬼に巣食われている。もう一度その目で見てみるがいい】
別段変わった様子もないし、鬼の魂なんて物も見えない。
「なんだ、咳なんかして風邪か?」
「ん~、最近ちょっと調子悪くて…やだなぁ明日から学校始まるのに」
そういえば、走って来たせいだと思っていた顔の赤みが増している。
「お前さっきより顔が赤いぞ、熱でもあるんじゃ……っ!?」
一瞬、ぼんやりと菫の姿が霞んだ。
黒く淀んだ影のような物が、菫の背後に燻っている。
「…鬼とは何も化物や物の怪のような異形の姿をしておる訳ではない。言わば人の心から生まれる思念のような物だ」
鬼切丸は、言葉を失っている泰彦の隣にふわりと降り立った。
「負の感情を持って死した者の魂は、成仏出来ぬままさ迷う事が多い。その思念が強い程、さ迷った年月が長い程、より邪悪な物へ変わり肉体を求め始める」
黒い影が、菫の体を浸食するように広がってゆく。
「…まぁ、見た所あの娘の中に入り込んでまだ時間は経っておらんようだが、その兆候が外にも出始めておるな」
「あれ…おかしいな、何か力が抜けて…」
菫の指が小刻みに震え持っていたペンが床に落ちると、身体の力が抜けたように机に伏してしまった。
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