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「菫!?」
慌てて泰彦が抱え起こすと、菫は苦しそうに呼吸を乱している。
「…泰彦、その娘から放れろ。そやつが儂に気付きおった」
鬼切丸に視線を向けた瞬間、泰彦の体は床へ押さえつけられた。
『この匂い…私を苛立たせる感覚…そこに居るのは誰』
菫の声じゃない。
姿形は変わらないのに、表情や口調はまるで別人のように冷たく憎しみに満ちている。
何より、その力は細い体からは想像出来ない程で身動きが取れない。
「く…っ!菫…!」
床を突き抜けんばかりの力が、泰彦の体にのし掛かった。
「苛立つのも当然。儂はそなたを斬る天敵だからの。それは良いが泰彦、早よう抜け出さぬか」
「アホ!!こんな馬鹿力どうしろってんだ!」
「なんと情けない…だからあれだけ鍛錬せいと申したではないか!このような事態に困るであろう!」
「こんな状況想定出来るか!!」
二人が言い争いをしていると、菫は泰彦から鬼切丸に狙いを変えた。
『私を斬るですって…?何者か知らないけどやっと波長の合う体を見つけたのよ!邪魔はさせない!』
菫が鬼切丸に向かって飛び掛かろうとした瞬間、泰彦はその体を制止した。
「このクソ野郎!菫の体から出ろ!」
掴んだ腕の感触に、泰彦の力が思わず緩んだ。
力いっぱい握ってしまえば、簡単に折れてしまいそうな菫の細い腕。
躊躇した隙に、泰彦は掴んだ腕に振り払われ壁に叩きつけられた。
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