獅子ノ哭ク頃二

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「いってぇ…」 どんなに中身が違うと言っても、体は菫なのだ。 殴る事も蹴る事も出来ないのに、どうやって追い出せばいいのか。 「泰彦、儂であの娘を斬れ」 泰彦の視界から鬼切丸が姿を消すと、右手に何かが触れた。 そこにあったのは、銀色の刃を輝かせた一本の日本刀。 「な…!?」 刀から伝わる鬼切丸の声に、目を見開く。 「んな事できる訳ねぇだろ!アイツを殺す気かよ!」 「案ずるな。儂が斬るのは人間ではなく鬼だ。娘の体は傷つかぬ」 今は鬼切丸を信じるしか手立てがない。 泰彦は鬼切丸を握り締め立ち上がった。 「但し」 「…なんだよ」 「一度儂を使い鬼を斬ってしまえば、主の人生はこれまでの平穏な物ではなくなるであろう。娘を救う為に、蕀の道をゆく覚悟があるか」 冷たい汗が、頬を伝う。 刀を構える腕が震える。 こんな小五月蝿い奴とどんな蕀の道を行けってんだ。 面倒にも程がある。 「…菫は…本当に傷付かないんだな?」 だけど、菫は。 コイツだけは。 『邪魔するなら殺す!』 目を血走らせ襲い掛かってきた菫に、泰彦は鬼切丸を掲げ一気に振り下ろす。 『ぎゃああぁあぁぁ!?』 菫の身体を突き抜けた、夕日を反射させ輝く一筋の光。 ――あぁ約束しよう―― 泰彦の頭の中で、鬼切丸は穏やかにそう言った。 握った柄から流れ込むように伝わる感情に、胸が熱くなる。 それは獅子が憂い哭くような、心を締め付ける叫び。 【また何處かで會へたならば、其の時は】 こんな想いを抱えて、どれだけの時代を超えて。 泰彦が立ち尽くす部屋の中、倒れた扇風機がカタカタと音を立て、気休め程度の風を送っていた。  
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