小説

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「……次」 髪から覗く片目が、残りの不良を捉える。 僅かながら、足が後ろに反れた。 「…どうしたの?来ない、の?」 「まさか、喧嘩吹っかけて来たクセに、ビビってんじゃねぇだろうなぁ…?」 うるせぇ!と怒鳴りはするが、幾分声が小さい気がする。目が恐怖に色付いて、揺れている。 それを知ってか知らずか、更に紅牙が煽る。 「鳴くだけ鳴いて、逃げるなんて、まるで子猫だな」 長身の、皮肉った顔持ちの男が低い声で、にゃーと鳴くのは、些か笑える光景だった。 それに便乗して、緑もにゃーにゃーと笑いながら鳴く。 しかし今はそれさえも、彼らを苛立たせる材料である。 「てめぇらぁあああっ!!」 くそったれ!と、一人が吠えて自分たちに襲い掛かれば、残りの残党も一斉にこちらに向かってきた。 「黄太、緑、一人で5人ヤれ」 「って、ええぇぇぇっ!!無理無理無理!つか何でオレも!?」 「ワァーイ、総長の足技が見れるー」 「呑気に何言ってんのぉ!!もう馬鹿ぁ!!」 「ひゃははー!」 「うだうだ言ってっと、ヤられんぞ」 「ひゃっはー、りょーかーい」 「絶対後で何か奢らせるからねっ!!」 黄太が足を。 緑が腕を。 紅牙が拳を。 バキリと、耳障りな音が響いた。 不良の小競り合いと言うには酷すぎた、圧倒的な力で捩じ伏せる喧嘩が始まった。 後に誰かが語った、あれは喧嘩なんかではないと。 一方的な暴力だと。 これはひどい。
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