序章 始まりの記憶

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俺の居場所が、孤児院にいた俺の〔家族や兄弟〕がすべて無くなったのだ。 悪い事をすると叱るが、良い事をすると叱った二倍で褒めてくれるトムおじさん・ご飯を奇麗に食べると、ニンマリと笑顔を見せる恰幅の良いバーバラおばさん・お祈りをサボる度にグーで殴るけど、本当は優しいアニー姉ちゃん… オヤツの度に俺とオヤツを取り合ったミッキー・おもちゃを取られるといつも俺を頼って泣いてたディッパ・難しい本を読破しては職員を驚かせるケヴィン、野花で花冠を作って下の子供達にあげてたアンナ…他にもたくさんいた孤児院の職員や兄弟達の顔が浮かんでくる。 大事なものを一気に無くした喪失感が俺の身体を支配する。 モウ、オレノカゾクハイナイ。オレハ、ヒトリニナッタンダ… 俺の一番古い記憶。それは誰かに手を引かれ、孤児院に向かう幼い俺の記憶。 引いていた柔らかい手、甘い香りがする背中、逆光で顔は見えないものの…何か不安で悲しげな感じがする誰か。その誰かを何も知らないで顔を上げて眺めている。 その次に浮かぶ記憶は、その誰かが孤児院を後にする背中。 その背中を追いかけようとして、孤児院の職員に止められる記憶。 きっと、その〔誰か〕は母親ではないだろうか。記憶と推測でしかない根拠なれど…でも、二度とその〔誰か〕に会う事は出来ないだろう。 幼いながらもそう思った。 それから暫くの間、記憶は空白だ。 だが、その空白の先の記憶は、孤児院での生活で一杯だ。 色々な職員の大人や孤児院にいる兄弟達の楽しくもあり、悲しくもあり、面白くもある生活の記憶。 そのたくさんの記憶がプチンと泡のように弾けては消えた…。
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