800人が本棚に入れています
本棚に追加
/226ページ
~隼人~
コンビニから家に帰ると、自然と離された手。
その手の感触が恋しくて、一旦離れた手をまた追って握ってしまった。
靴を脱いだ竜が不思議そうに後ろを振り返る。
『どうした?』
また握りしめた手を振り払うでもなく、繋がれたままお互いの顔を見つめる。
靴を脱いでいない俺はまだ玄関に突っ立ったままで、いつもは俺が少し見下ろしていたのに、段差から竜を見上げる形となる。
その光景があまりないせいか、いつもと違う視線に少しドキリとする。
それは向こうも同じようで見つめ合いながらなんとなくお互い照れ臭くて、気付いた時には笑い合っていた。
ゆっくりと繋がれた手がまた離されたが、何故か心はまた暖かくなっていて、廊下を進んでいく後ろ姿が愛しかった。
コンビニに向かう途中に、まさか夏に貸したパーカーの事を覚えてくれていたとは思ってもみなくて、手を繋ぎながら照れて竜が顔を背けた時に、顔がニヤついてしまったのは仕方がないことだと思う。
竜の手はいつも少し冷たくて、握りしめたら折れてしまうんじゃないかというほど細い。
そんな手が昔、一緒になって喧嘩して人を殴っていたと思うと驚きである。
そりゃあ、あの時から手が折れてしまうんじゃないかと何回も思った時期はあったが…最近、喧嘩をしなくなってからはまた一段と手が…いや存在自体が儚くなっていっている気がする。
これがただの思い過ごしならいい。
それがどうか本当でないことを祈りながら、自分の手を握りしめた………。
大切な人を守れる人になりたかったから、喧嘩していた毎日が今はなんとなく懐かしい。
今も守りたいものは変わりない。
でも、大切な人を守るために握りしめているはずのこの拳は…今回は絶対にふるってはいけない………
最初のコメントを投稿しよう!