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『光一さん。もう無理して悪者にならないで下さい。俺は…、貴方が傍にいてくれて良かったと今でもそう思えるから。だから今度は俺に…貴方自身の幸せを願わせて下さい。綺麗な終わり方なんて誰にも分からないけれど…、この関係は今日で終わりにしましょう…?』
貴方がどんなに悪役になろうとしても、俺には分かるんです。
貴方が無理をして笑っている事くらい。
だから、貴方にも分かるでしょ?
俺が心からそう祈っている事が………
部屋の中はまた一旦、静寂に包まれていたが、光一さんの笑い声でそれは破られた。
『矢吹くん』
『はい』
『君はそれで俺を許せるの?』
『今すぐには無理っすね』
『もしかしたら、本当に俺が無理矢理カナダに連れ去るかもしれないよ?』
『そしたら全力で取り戻しに行きますから』
『俺は君が嫌いだ』
『そりゃどーも』
『だが…、もう悪者も疲れたよ』
『……………』
『竜、またおいで。その時は…ちゃんとカナダの件について話そう。…今日はもうお開きだ。
…、これでもう終わりだ』
そう言って笑った光一さんの笑顔は昔と変わらない優しい笑顔だった…。
『…また来ます。それじゃあ…また』
『あぁ、その時は二人で話そう。邪魔者はなしでさ』
『それって俺ですよね?』
『どう取るかは君次第だよ』
ソファから立ち上がり、扉へと向かう俺達。
光一さんは立ち上がりはしたが、その場を動こうとはしなかった。
『竜…』
出る寸前の所で、後ろから声が掛かる。
俺がゆっくりと振り返ると光一さんが泣いていた。
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